相続コラム

「2011年7月」のコラム

居宅などの非収益物件であれば、その評価額は

「いくらで売れるのか?」

という目線で考えることになるのですが、

これが賃貸ビル貸アパートなど収益物件となると、

話は少々難しくなります。

 

何故かと言いますと、

このような収益物件の評価は、

その物件が今後生むであろう収益を元に算定するものだからです。

 

すごく単純な例を挙げますと、

今後間違いなく毎年100万円の収益を生み、

10年後に1000万円で売却する予定の物件があるとします。

この場合における物件の評価額は、

年間収益100万円×10年+売却予定額1000万円=2000万円

となります。

(本来は現在価値に割り引くなど色々面倒なことをするのですが、

 そこまで解説するとキリがないので省略します)

 

しかし上記のような単純な事例は、現実には存在しません。

そもそも今後毎年どれだけの収益を生むかは、誰にも分かりません。

予期せぬ修繕費の支出、入居者の退去による収入減少など、

様々なリスクが想定されるからです。

更に、そもそも10年後にいくらで売れるかなんて、

著名な学者・評論家でさえも予測困難でしょう。

 

ですので、正確な評価は非常に難しいので、

どこかで見切りをつけて落としどころを探るしかありません。

現実的には、次のいずれかの方法で評価することになります。

 

1.不動産鑑定士鑑定評価、又は不動産業者の意見

2.相続人同士の話し合い

 

上記2は、例えば

「今後5年間(あるいは10年間など)の予想収益の合計を評価額としよう」

というような感じで、簡便的にケリをつける、ということです。

相続人全員が納得すれば構わないのですが、意見が割れる場合は、

第三者の専門的意見、つまり鑑定評価をお願いするしかないでしょう。

 

ちなみに、

相続税の財産評価通達に賃貸物件の評価基準が定められておりますが、

これは全く参考になりません。

そもそも今後生じる収益を全く斟酌しておりませんし、

それどころか賃借人の権利(借家権など)を目減りさせる評価方法なので、

非収益物件よりも評価額が下がってしまいます。

本来的には、そんな馬鹿な話はありません。

が、そういう決まり事になっておりますので、節税対策として使う分には有効です。

しかし遺産分割する際の評価額としては正直余りお奨めできません。




節税対策筆頭としてまず真っ先に挙げられるのが、

賃貸用建物(マンション・アパート・貸ビルなど)の建築です。

はっきり言って、この節税効果は横綱級です。

 

時価1億円更地(借地権割合50%)があったとします。

路線価による相続税の評価額は、時価の約80%で8000万円。

つまり、相続が発生した際の財産評価額は、この8000万円です。

 

ところが、この更地の上に、2億円の賃貸マンションを建てると・・・

まず更地が貸家建付地となり、その評価額は、

8000万円×(1−借地権50%×借家権割合30%)=6,800万円

となります。つまり1,200万円の評価減少です。

何故かと言いますと、そのマンションに住む賃借人の権利

つまり借家権30%が減額要素として考慮されるからです。

 

そして建物の評価額は、こうなります。

2億円×固定資産税評価70%×(1−借家権割合30%

                                 =9,800万円

 

固定資産税評価額は市町村が決定しますので何とも断言できませんが、

おおむね時価の70%とされております。

この評価額に、借家権30%分を減額すると、

上記の通り半値以下の評価額になります。

嘘のような本当の話です。

 

通常、このような大規模の賃貸建物を建築する場合は、

金融機関のローンを組みます。

建築資金の全額をローンでまかなったとします。

このローンは債務として、マイナスの相続財産となります。

 

結論。

何もしなければ、財産評価額は更地の8000万円。

マンションを建築すれば、

 1.更地 6,800万円

 2.建物 9,800万円

 3.債務 △2億円

 4.合計 △3,400万円

 

・・・評価額は1億円以上も減少することになります。

(さらに小規模宅地の評価減を使って更に減らすこともできますが、

 話が長くなるので割愛します)

 

こんなことが許されるのか!?と思う人もいるかもしれませんが、

現行の法制ではこのようになっておりますので、

こうなるんです、としか言いようがありません。

 

ただし、注意点をいくつか。

まず、借家権割合は「借家人が借りている部分」のみ認められます。

つまり満室であれば、その建物全てを30%評価減できますが、

半分しか埋まってない場合は、建物の半分部分しか評価減できません。

 

そして、もっと重要なこと。

この節税対策は、短期的な効果は絶大ですが、

長期的に考えますと、逆に財産の額が増えてしまう可能性があります。

何故かというと、賃貸収入が入ってきますので、現金が増えます。

(当初の計画通りに部屋が埋まれば、の話ですが・・・)

そこそこ利回りの良い物件であれば20年程度で元が取れますので、

今より余計に財産が増えてしまう、ということになりかねません。

まあ、そうなったらそうなったで、次の物件を考えるという手もありますし、

そもそも現金は優良資産ですので、いくら持ってても困らないでしょう。

羨ましい悩みである、とも言えます。

 

土地を遊ばせている地主様は、是非ご検討を。

今後、我が国の人口は減りますが、

その一方で核家族化の進行に伴い賃貸物件の需要は増える、

(ただし札幌市など中核都市に限る)

という予測データもあります。




相続人間で遺産分割協議をする際、

少々厄介な問題となるのが不動産評価額です。

 

全員が納得できるよう、公平な遺産分割をしたい。

出来ることなら仲良く喧嘩せず、穏便に協議を済ませたい。

誰もがそう願うでしょう。人間として当然の感情です。

が、やはりカネの問題なので、1円足りとも曖昧にはできない。

それもまた当然のことです。

 

相続財産が全て現金預金ならば、事は単純です。

パパパッと電卓をはじいて、民法の法定相続分などの割合に応じて

公平に分ければ済むことです。

(まあ過去の特別受益やら寄与分やらを持ち出すと少々面倒ですが・・・)

 

が、不動産はどうやって円換算すればよいのか?

誰しも悩むところです。

 

この場合の考え方として、

 

1.その不動産が非収益物件(居宅・更地など)である場合

2.その不動産が収益物件(賃貸マンション・駐車場など)である場合

 

のいずれに該当するかによって、考え方は違ってきます。

 

まず非収益物件のケースについて。

結論から申し上げますと、私の実務経験上、次のいずれかで評価します。

 

1.固定資産税評価額 を元に算定

2.路線価 を元に算定

3.近所の不動産屋の意見などを考慮した売買予想価格

4.不動産鑑定士の鑑定評価

 

上記1と2は、イコール通常の売買時価ではありません。

固定資産税評価額は、通常の売買時価の約70%

路線価は、同じく80%、という建前になっております。

ですので、例えば固定資産評価額が700万円である場合、

遺産分割する際の評価額は、700万円÷7割=1000万円、

という感じで、10割の金額に引き直す必要があります。

ただ今のご時世、なかなか高くは売れません。

固定資産税評価額未満の価格でしか売れないケースもあります。

なので、10割に引き直さず、70% or 80%のままで評価する、

という考え方も今時は有り得るでしょう。

 

上記3は、意外と結構お奨めです。

親切な不動産屋さんであれば、結構立派な評価書を作ってくれたりします。

まあ「売却の際は是非とも我が社を通して・・・」ということなのですが。

 

上記4は、鑑定士さんに支払う報酬費用が発生しますが、

本当にキチンと評価して遺産分割したい場合には最も有効です。

相続人間で若干揉めている状況であれば、これでいくべきでしょう。

 

上記のうち結局どれが一番正しいのか、と言いますと、

正解はありません。

費用と手間を考慮のうえ、相続人全員が納得すれば、それが正解、となります。

お手軽で構わない、相続人間でさほど揉めてないのであれば1か2か3、

費用はかかっても、ちゃんとしたいのであれば4、ということになります。



相続人の一人が日頃音信不通で、

どこに住んでいるのか分からない、というケースがまれにございます。

 

その場合の対処方法として、まず最初にやるべきことは、

その人の戸籍・住民票を辿ることです。

その人だって普段の生活がありますので、

意外と住民票の異動手続きはきちんとやってたりします。

あとはその住所宛てに

「相続が発生したので折り返し連絡下さい。」

と弊社名で郵便を発送します。

その人がその住民票の住所に住んでいれば、

まずほとんど間違いなく連絡が来ます。

 

それでも連絡が取れない場合は、

少々面倒ですが致し方ありません。

裁判所のお力を借りることになります。

具体的には、次の二つの方法があります。

 

1.生きているはずだがどこに住んでいるのか分からない場合

裁判所に不在者財産管理人選任 の申し立てをします。

裁判所に選任された財産管理人は、

その行方不明者に代わって遺産分割協議に参加することができます。

 

2.7年以上行方不明であり、その存否すら怪しいとき

裁判所に失踪宣告 の申し立てをします。

その申し立てが認められると、

その行方不明の人は法律上死亡したものとみなされます。

 

相続のお仕事をやっておりますと、本当に色々なご相談があります。

そのたびに大切なことだと思うのは、

ご本人様(被相続人となる方)がお元気でらっしゃる間に、

自分が亡くなった際に起こり得るトラブルを事前回避する努力です。

出来るだけ早く、元気なうちに、やらなければなりません。




危急時遺言要件は、

民法976条でガッチガチに規定されております。

 

1.証人3人以上の立会いをもって

2.その証人の一人に遺言の趣旨を口授する

3.その口授を受けた証人が、これを筆記して、

  遺言者及び他の証人に読み聞かせ(又は閲覧させ)

4.各証人がその筆記の正確なことを承認し、これに署名し、印を押す

 

【 例外1 】 口がきけない者が遺言をする場合

遺言者は、証人の前で、遺言の趣旨を通訳人の通訳により申述する

 

【 例外2 】 遺言者又は他の証人が耳が聞こえない者である場合

遺言の趣旨の口授又は申述を受けた者は、その筆記した内容を通訳人の通訳によりその遺言者又は他の証人に伝える

 

この要件に完璧に当てはまらないとダメなのか?

というと、全くそういうことではなく、

判例によると結構柔軟的に扱われているようです。

 

とある判例。

・立ち会った証人の一人があらかじめ作成された草案を一項目ずつ読み上げ、遺言者が、その都度うなずきながら「はい」などと返答し、最後に右証人から念を押され了承する旨を述べたなど判示の事実関係の下においては、遺言の趣旨の口授があったものということができる。

 

他にもこんな判例があります。

 

・遺言書に遺言をした日附ないしその証書の作成日附を記載することは遺言の有効要件ではなく、遺言書に作成の日として記載された日附が正確性を欠いていても、遺言は無効ではない。

 

・筆記者である証人が筆記内容を清書した書面に遺言者の現在しない場所で署名捺印をし、他の証人二名の署名を得たうえ、全証人の立会いのもとに遺言者に読み聞かせ、その後、遺言者の現在しない、遺言執行者に指定された者の法律事務所で右証人二名が捺印をし、もつて全証人の署名捺印が完成した場合であつても、その署名捺印が、筆記内容に変改を加えた疑いを挾む余地のない事情のもとに遺言書作成の一連の過程に従つて遅滞なくなされたものであるときは、その署名捺印は民法976条の方式に則つたものとして、遺言の効力を認めるに妨げない。

 

要は、その遺言が、間違いなく遺言者の意志である、

ということが最も重要なことであって、

形式的な部分はかなり融通が利く、と考えてよさそうです。

まあ危急時遺言の場合、場合が場合ですから、

とても形式にこだわっている余裕なんて無い、

というのが我々現場サイドの本音であり、事実でありますから。

この取扱いは有難いことです。




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