相続コラム

「2013年3月」のコラム

今回の税制改正では、未成年者控除だけでなく、障害者控除も引き上げられる予定です。


現行税制では、相続人のうちに障害者がいる場合、その障害者が85歳になるまでの年数につき1年あたり6万円(特別障害者の場合は12万円)の控除が認められております。


これが、改正後は、1年あたり10万円(特別障害者の場合は20万円)になる予定です。

納税者にとって有利な改正です。


なお、これまで解説してきた税制改正案は、今のところ国会で審議中であり、まだ最終決定の段階ではありませんが、これが無事(?)国会を通りますと、平成27年1月1日以降に発生する相続において、この改正内容が適用される予定です。


つまり、今年または来年に亡くなった人に関する相続については、これらの改正は適用されず、現行の税制が適用されます。


人の死期は神様が決めることなので、我々人間がどうこうすることは出来ませんが、その死期によって遺族の相続税負担が上下する微妙な時期が到来したということです。


まとめますと、今回の相続税改正は、納税者にとって有利な事項と不利な事項があります。


【不利(納税負担が上がる)な事項】

 相続税基礎控除額の引き下げ

 相続税最高税率の引き上げ


【有利(納税負担が下がる)な事項】

 特定居住用宅地等の特例対象面積の拡充

 居住用・事業用の小規模宅地特例併用面積の拡充

 二世帯住宅にかかる小規模宅地の特例適用

 老人ホーム入居者にかかる小規模宅地の特例適用

 未成年者控除の引き上げ

 障害者控除の引き上げ



基礎控除額引き下げのインパクトが絶大なので、総体的には納税者の負担が増えることは間違いありませんが、その一方で高齢者の住宅事情、未成年者や障害者など社会的弱者に配慮した改正も多くありますので、やや痛み分けといったところでしょうか。



今回の相続税改正案は、決して納税者にとって厳しい内容ばかりではありません。

今まで説明した通り、二世帯住宅や老人ホーム入居者など昨今の日本人の在り方に配慮した内容も含まれておりますし、これから説明するように、未成年者や障害者など社会的弱者に対する配慮もなされているようです。


現行の相続税法においては、相続人のなかに未成年者(20歳未満)や障害者がいる場合、それらの人達の相続税額を減らすことができます。


まず未成年者控除ですが、その人が20歳になるまでの年数×6万円の控除が認められております。

例えば、16歳の未成年者がいる場合、20歳−16歳=4年ですから、その4年に6万円を乗じた24万円が控除額となり、その額だけ相続税が安くなります。


これが、改正後は、×10万円となる予定です。つまり上記の例でいうと、4年×10万円=40万円が控除額となります。


以下は蛇足ですが、未成年者は単独で法律行為をすることができません。

未成年者の法律行為は、原則として法定代理人が行います。

法定代理人になるのは、通常はその未成年者の親です。


しかし、相続においては、その親も同時に相続人であるケースも珍しくありません。例えば、ご主人が亡くなり、その相続人が妻と子(未成年者)である場合などです。

そのような場合は、「利益相反」という状態になります。つまり妻と子がどちらも相続人として利益を得る立場にありますので、この状態で仮に妻が子の法定代理人になってしまうと、その妻が自らに有利な遺産分割を勝手にしてしまう可能性があります。


そこで、このような利益相反状態である場合は、裁判所に「特別代理人」を選定してもらうことになります。利益相反の関係でない全くの第三者が法定代理人になることによって、その妻と特別代理人が遺産分割協議を行い、双方にとって公平な遺産分割を行うことが可能となります。


特別代理人は、親戚関係者など身内がなることもありますし、弁護士のような専門家がなることもできます。どちらもそれぞれメリット・デメリットがありますので、ケースに応じてよくよく検討すべきでしょう。



高齢になって心身の能力が低下し、住み慣れた自宅を離れて老人ホームに居住することは決して珍しくありません。


そのような状況下で亡くなった場合、その自宅敷地に対して小規模宅地の特例を適用できるかどうかは、非常に悩ましい問題です。

故人の住民票が老人ホームに移されており、名実ともに老人ホームが「終の棲家」であったものと判断される場合には、それ以前に居住していた自宅の敷地については小規模宅地の特例を適用できない、というケースが多くあります。


今回の税制改正大綱では、次のように記載されております。


「老人ホームに入所したことにより被相続人の居住の用に供されなくなった家屋の敷地の用に供されていた宅地等は、次の要件が満たされる場合に限り、相続の開始の直前において被相続人の居住の用に供されていたものとして特例を適用する。


 イ 被相続人に介護が必要なため入所したものであること。

 ロ 当該家屋が貸付け等の用途に供されていないこと。     」


この改正が実現されれば、高齢者は安心して老人ホームに入所することができますね。


ただし記載のとおり、その自宅が他の第三者に貸し付けられていたらアウトです(貸付け用の小規模宅地特例を使えることにはなろうかと思いますが、減額の効果はガクッと下がります)ので、ご注意下さい。


あと、この規定はいわゆる老人ホームだけではなく、他の施設形態、例えばグルームホームやサ高住などに入居する場合においても適用されるのかどうかが気になるところです。

私個人の見解としては、グループホームはある程度認知症が進んだ状態での介護を前提としているのでOKだろうと思いますが、サ高住は比較的元気なうちに入居するケースも想定されますので難しいかもしれない、と思っております。



今や二世帯住宅は珍しいものではありません。


故人名義の二世帯住宅を相続する際における小規模宅地特例の適用は、今までずっと悩ましい問題でありました。

現状、法律上きちんと明記されているわけではありませんが、東京国税局が次のような見解を出しておりますので、おおむね実務上はこの見解に沿って判定することになっているかと思われます。


1.二世帯住宅の内部で、双方の世帯が互いに行き来できる構造である場合


このような場合は、事実上一世帯で同居しているのとほぼ同じであると認められますので、その片方の世帯主である子が相続した場合には、小規模宅地の特例が適用されます。


2.二世帯住宅の内部で、双方の世帯が互いに行き来できない構造である場合


つまり外に出て別々の玄関から入らなければ、双方行き来できないケースです。

このような場合は、双方全く別の住居であるも同然ですので、その片方の世帯主である子が相続した場合においても、小規模宅地の特例は適用されません。

ただし例外として、故人が他の相続人と同居していなかった場合には、適用できるものとされております。


今回の税制改正大綱においては、上記2のような場合であっても、原則例外なく、全てその片方の世帯主である子が相続した場合は小規模宅地特例が適用される、としております。


「一戸建てならば二世帯住宅」が当たり前となりつつある現状に即した改正と言えましょう。



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