相続コラム

「2014年2月」のコラム

受託者は、信託において最も重要な存在である、と言い切っても過言ではありません。

受託者がきちんと機能しなければ、そもそも信託スキームは一歩も前に進みません。


ところで、受託者が途中でいなくなるケースが考えられます。

例えば、受託者が途中で亡くなった場合。

これは現実問題として充分有り得ます。


第一に優先されるのは、信託契約です。

信託契約に「受託者が死亡した場合の新受託者の選任」に関する規定(例えば「受託者Bが死亡した場合には、Cを新たな受託者とする」など)がある場合には、その規定に従います。


信託契約にその規定がない場合は、委託者と受益者との合意により、新たな受託者を選任します。

委託者が先に死亡するなどして不在の場合は、受益者が単独で選任できます。


受託者の地位は、その相続人に相続されません。が、新たな受託者が選任されるまでの間、その旧受託者の相続人が、信託財産の管理を行い、かつその旨を受益者に通知する必要があります。


新たな受託者がすぐ選任されれば良いのですが、もし受託者不在の状態が1年間継続してしまうと、信託が終了してしまいますので注意が必要です。


このように、受託者の死亡は一大事でありますので、事前にしっかりと事態を想定し、信託契約に盛り込んでおくのが無難でありましょう。



同意者とは、受託者の行為に対して同意する権利を有する者です。

指図権者とは、受託者の行為に対して指図する権利を有する者です。


いずれも信託契約等で定めることができます。

定めるかどうかは任意です。


例えば、受益者が認知症、重病あるいは知的障害者などの場合、受託者が信託財産の中から諸々の支払いをしたり、あるいは毎月所定の額を生活費として引き出したり。

このようなことを、受託者が単独で行うのではなく、同意者の同意を得たり、指図権者から「今月は○○円引き出して使うように」と指図を受けたり、ということになります。


前回説明した信託監督人等と同様、全てを受託者任せにせず、一定の監視の元に受託行為を行わせるために必要な仕組みです。


つまりそれほど、受託者の地位というものは重要なのです。


信託には様々な事情が想定されます。

何も別に「受託者の人間性が信用できないから」ということばかりではなく、信託財産の数が多く複雑であったり、受益者の身体状況に難があったりするなど、受託者の手におえない事態が想定される場合などは、例えば弁護士などの専門家を同意者にしておく、というようにしておけば、必要な都度、適切なアドバイスを受けられたりします。


事業承継等で信託を活用する際、自社株式の議決権行使につき信頼できる人を指図権者を指定しておく、というような方法も考えられます。



信託のスキームを考えるにあたって、最も頭を悩ます事柄の一つは「受託者を誰にするか?」です。


受託者は、信託の対象となる財産を預り、その財産を適正に管理し運営する責任を負います。つまり受託者がテキトーな仕事をしてしまうと(あるいは全く仕事をせずにサボっていると)、信託が全く機能しなくなってしまい、受益者の権利を保護することができなくなります。


委託者が受益者が目を光らせて監視できればいいのですが、例えば受益者が認知症や知的障害者などであった場合、誰が受託者に目を光らせればよいのでしょうか?

そこで登場するのが信託監督人です。


あらかじめ信託監督人を指定しておけば、もし受託者がしっかりと仕事をせずサボっていると「こら、ちゃんと仕事しなさい!」と叱ってくれます。


受託者に全てを委ねるのはイマイチ不安だ、という場合には、信託監督人を選任しておくことを検討してみましょう。


また、受益者が例えば高齢、認知症、知的障害などを有する者である場合には、受益者が自らの権利を主張したりすることが難しく、もし受託者が信託財産を横領するなどしてしまえば、それを発見してしかるべき処置をとることができません。

このような場合、受益者代理人を選任しておくと便利です。


受益者代理人は、その名の通り、受益者の代理として、受益者本人に代わって受益者の権利を行使することができます。


このように、信託というものは、委託者・受託者・受益者だけではなく、これらを補完するための脇役も存在します。他にもまだいくつか存在しますが、追ってまたご紹介します。



信託の受益権は、元本受益権収益受益権を分離させることができます。


通常、例えば不動産などは、その賃貸収入を得る権利と、売却することによって得る権利を分けることはできません。その不動産の所有権を有する者が、これらの権利全てを有することになります。


が、信託では、それを分けることができるのです。


典型的な事例としては、「賃貸不動産を信託して、10年後にその不動産を売却する。」というようなスキームです。

ここで例えば、信託中の賃貸収入を得る権利をAさん、信託終了時の売却収入を得る権利をBさんとする、というようなことが可能です。

つまり収益受益権を有する受益者がAさん、元本受益権を有する受益者がBさん、ということになります。


あまりややこしいスキームを組むとワケわからなくなりますし、税務上のデメリットが生じる可能性もありますので正直お勧めできませんが、その人の家庭事情などを総合的に判断して最適なスキームを講じるべきであることは議論を待つまでもありません。信託は飴のごとく柔軟的なスキームを組み立てることができますので、複雑な家庭事情に極力対応させる手段として期待できるものです。



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