相続コラム

「2014年4月」のコラム

受益者が有する受益権は、他の第三者に譲渡することができます。


例えば、自宅の土地建物を信託していた、とします。

この土地建物の(形式上の)名義人は受託者ですが、実質的な価値たる受益権は受益者が有することになります。

では、この受益権の価値は一体いくらであるか、といいますと、まあ普通に考えれば、その対象物である土地建物の売買時価ということになりましょう。


仮に、この土地建物を売るとすれば、だいたい1千万円ぐらいが相場である、としましょう。

そうなりますと、受益権の価値も同じく1千万円であると考えることができます。

これが第三者間で受益権の譲渡価格を決定する際の相場となりましょう。


ところで、信託スキームは、信託行為(信託契約など)の記載事項が何よりも優先されます。

もし信託契約に「受益権を譲渡してはならない」と記載されていれば、譲渡することはできません。


ただし第三者への対抗要件というものがあります。

譲渡した第三者が善意(つまり受益権の譲渡禁止事項を知らなかった)であれば、その第三者を保護するため、譲渡は有効となります。



受託者は、信託行為に関する会計をきっちりとやる必要があります。


会計、です。

お手軽な家計簿みたいなものを連想してはいけません。


・複式簿記に基づく会計帳簿

・貸借対照表

・損益計算書


を作成しなければなりません。

一般的な株式会社などが採用する企業会計とほぼ同レベルが求められます。


正直申し上げますと、受託者自身が太刀打ちできるレベルではないと思います。

私がこういうことを書くと、なんだか宣伝みたいで大変恐縮なのですが、やはり税理士にお願いするのが無難だろうと思います。


信託財産の中に、例えば賃貸アパートのような収益物件がある場合には、いずれにしても不動産所得の確定申告しなければなりませんので、まとめて税理士にお願いすればよいでしょう。


なお、次に掲げる信託については、より詳細な書類を作成することが求められます。


・限定責任信託

・受益権の譲渡に関する制限のない信託 など


具体的には、上記に掲げた帳簿等の他、信託概況報告、付属明細書、減価償却方法や引当金計上基準などを記載した注記表を作成することになります。

もう素人の方には太刀打ちできるレベルではありません。


これらの書類は、10年間保存しなければなりません。


また、受託者はこれらの書類を受益者に報告しなければならず、かつ受益者はこれらの閲覧を求めることができます。



信託を開始した後、その信託の内容を変更することは出来るのでしょうか?


まず信託契約等において「○○○の同意があれば変更できる」等の定めがあれば、その定めに従うことになります。


上記の定めが無い場合は、少々面倒です。

原則として、委託者・受託者・受益者全員の同意が必要となります。


つまり、遺言信託のような、委託者が存在しないスキームにおいては、変更不可能ということになります。


また受益者が複数存在する場合には、それら全員の合意が必要です。


以上が原則ですが、例外はあります。

信託契約等には「信託の目的」すなわち「この信託によって達成すべき重要な事柄」があります。

例えば「障害をもつ次男の生活を安定させるために信託財産を活用する」というようなことです。

この信託目的に反しない程度の軽微な変更であれば、全員の合意がなくてもよいことになっております。


具体的には


1.原則

    … 受託者および受益者の合意により、委託者に通知する

2.受益者の利益に適合する場合

    … 受託者の合意により、委託者および受益者に通知する

3.受託者の利益を害さない場合

    … 受益者から受託者に意思表示し、かつ受託者が委託者にその変更内容を通知

4.受託者の利益を害しない場合

    … 委託者および受益者の合意により、受託者に通知する


まあ結局は面倒ですので、信託契約等に最初から盛り込んでおく方が無難です。



前回と前々回でご説明した通り、信託に関する債務は、基本的には信託財産をもって支払うものではありますが、ケースによっては受託者自身の財産を取り崩して支払わなければならない可能性も有り得ます。


と言われてしまうと、まず大抵の方は「受託者なんてやってられるか!」と思うことでしょう。

それでは信託が成り立ちません。


そこで、限定責任信託というものが登場します。


限定責任信託とは、その名の通り、信託に関する債務は信託財産のみをもって支払うものとする、という信託のことです。

これなら安心ですね。


限定責任信託をするためには、次の要件をクリアする必要があります。


1.信託契約等に、限定責任信託である旨、その他必要な事項を記載する。

2.不動産など、限定責任信託である旨の登記をする。

3.受託者が、取引の相手方に対して、限定責任信託である旨を主張する。

4.信託に関する帳簿、詳細な決算書を作成し、債権者等に開示する。


まあ実際のところ、信託の大部分は、この限定責任信託によることになるでしょう。

ただしデメリットが全く無いとは言えません。

信託行為で金融機関その他利害関係者との取引を行う際、その信用力が信託財産に限定されてしまうので、もし信託財産が豊富にあれば問題ないのですが、そうでなければ信用力が乏しいものと判断されてしまい、取引が小規模なものに限定されてしまう可能性があります。

受託者自身の資力をも背景として信託行為を行いたい場合には、あえて限定責任信託によらない選択肢も考えられましょう。



このページの先頭へ戻る