相続コラム

「2014年5月」のコラム

幼い子や孫へ財産を生前移転する方法として、次の2点が考えられます。


1.生前贈与による移転

2.信託による移転



まず生前贈与による移転を検証してみます。

幼い子や孫、つまり未成年は、法律行為を直接行うことができませんので、親権者である親が同意することによって行為が成立します。

例えば贈与契約書において、贈与者(あげる人)と受贈者(もらう人)の双方が署名捺印することになりますが、この場合の受贈者である子や孫については、本人に代わって親が代理で署名捺印することになります。


注意すべきは、贈与契約が成立していない、とみなされるケースです。

贈与というものは、贈与者と受贈者との合意が大前提となります。

贈与者が、受贈者名義の預金口座を勝手に開設し、そこにお金をバンバン入金したところで、肝心の受贈者がそれを知らなかった場合には、贈与は成立していないことになります。

つまりそのお金は、形式上は受贈者の名義になっていたとしても、実質的には贈与者の所有物である、ということになります。

俗にいう名義預金です。


そこの部分が曖昧なまま、相続税の税務調査で、こっぴどく調査官に絞られてしまうケースが多発しております。


このリスクを回避する手段として、信託による財産移転が威力を発揮します。

上記の事例を信託に当てはめますと、受贈者となるべき子や孫が受益者となります。

信託契約は委託者と受託者との合意により成立しますので、受益者が未成年であっても全く問題ありません。


また信託契約が有効に成立すれば、贈与における契約成立の有無や名義預金といった曖昧な問題は起こりようが無く、全てクリアになります。


上記いずれにしろ、贈与税の問題は考えておく必要があります。

信託であったとしても、受益者となった時点で、実質的に受益権という形で利益を得たことになりますので、贈与税の課税対象となります。

贈与税の申告など、必要な手続きは全て漏れなくやっておきましょう。



信託の内容を途中で変更したりする場合、ケースによっては受益者が不当な損害を受ける可能性も有り得ます。

そのような場合は、受益者は、受託者に対して受益権を買い取るよう請求することができます。


具体的には次のようなケースです。


1.次に掲げる信託の変更があった場合

   (1) 信託の目的の変更

   (2) 受益権の譲渡の制限

   (3) 受託者の義務の全部または一部の減免

   (4) 受益債権の内容の変更

   (5) 信託行為において定めた事項

2.信託の併合または分割がある場合に、受益者が損害を受ける恐れがある場合


※ 上記1(3)〜(5)については、受益者が明らかに損害を受ける場合に限る。



結論から申し上げますと、不可能です。

信託の対象となるのは積極財産(金融資産、不動産など)であり、消極財産(借入金など)を信託することはできません。


ただし、債権者との利害調整により、できるだけ理想の形に近づけることは理論上可能です(実際は結構難しいですが)。


ローン付きの賃貸アパートを信託する、という具体例で説明しましょう。

賃貸アパート自体を信託することは全く問題ありません。

要は、ヒモ付きのローンをどうするか、ということです。


アパートと一緒に、ローンも委託者から受託者に名義変更できればよいのですが。

(これを「債務引受」といいます。)


債務引受には、次の二つの方法が考えられます。


・免責的債務引受 (新債務者が全ての債務を背負い、旧債務者はその責任を逃れること)

・重畳(ちょうじょう)的債務引受 (旧債務者も引き続き債務を背負うこと)


債権者の立場からすれば、後者の重畳的債務引受の方がいいに決まってます。

もし何か不測の事態が生じれば、受託者(新債務者)だけでなく委託者(旧債務者)に対しても弁済請求することができますから、リスクの軽減につながります。


免責的債務引受だと受託者だけが債務を背負いますので、受託者の資力だけが拠り所となります。


金融機関のスタンスは、このような場合、重畳的債務引受にするのが大原則です。

これを免責的にするのは相当骨が折れる交渉となります。

時間をかけてじっくりとスキームを練り、金融機関にも積極的にスキーム構築に参加させる等の事前対策が必要でしょう。



賃貸不動産などの収益物件によって得られる利益は、大きく次の二つに分けられます。


キャピタルゲイン … 元本を売却することによって得られる利益

インカムゲイン … 配当、利息などの運用益


通常これらは一体不可分のものでありますが、信託を活用することによって、これらを分離することができます。

いわゆるキャピタルゲインに相当する部分つまり元本を受け取る権利は「元本受益権」として、インカムゲンに相当する部分つまり配当等を受け取る権利は「収益受益権」として、それぞれ別個の権利とすることが可能です。


問題はこれらの権利をそれぞれどう評価するかですが、一般的には次の通り評価します。


収益受益権 = 将来得られるべき収益の額をそれぞれ現在価値に割り戻した額の合計

元本受益権 = 財産の評価額 − 収益受益権の評価額


現在価値とか何やら難しい言葉が登場しましたが、面倒なのでここでの説明は割愛します。



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